柴田励司の人事の目

Indigo Blue メールマガジン

Vol.317 人材育成論(前篇)

グロービスさん主催のCLO(Chief Learning Officer)会議@大津で
基調講演&パネルディスカッションに参加してきました。
テーマは組織内の人材育成です。

「人材育成」には強い問題意識があります。

日本が今、最も力を入れるべきことだと思っています。
生物である以上、これは当たり前の本能だと思いますが、
「自分の子孫世代を豊かにする」という使命感がそう思わせています。

本来は"国を挙げて"やるべきことだと思いますが、むしろ逆じゃん、
みたいな議論が国レベルであるので"やれやれ"と思うことがしばしばあります。

子孫世代を豊かにしようとすると、今の情勢は危機的です。
なにしろ人口が減っているわけです。それも毎年70万人くらい減っているわけです。
このどうしようもない情勢の中で、「今の豊かさ」を維持・向上させようとしたら、
もうヒトの力しかないと思うのです。

ヒトの力を高めて、これまで以上の価値を創っていくしかない。
だから、「人材育成」が最重要課題だと思っているわけです。

そう考えたときにどのような人材を育むべきか、ということになります。

私が考えるのは「0から1を生む」クリエイティブ面に秀でたヒト、
「1をN倍化する」ディベロップメント面に秀でたヒト、
これらをグローバルな環境の中で行えるヒト・・・・

これらの力量をもった人材がこれまで以上に必要になると考えています。
これまでの日本の強みであった「1を素晴らしい1にする」ヒト、
これも大切だとは思うのですが、今後の日本を考えると、
それだけだと"世の中の質の維持向上"が難しいと思うのです。

で、次の質問が、こうした人材を「育成」しようとしたときに何が必要か、になります。

私は「時間と環境の提供」ではないかと考えています。

物事は「Input」「Throughput」「Output」の局面に整理できます。
「0から1」「1のN倍」というOutputを出すためには、
それなりの「Input」が必要になります。

このとき、もはや普通の「Input」ではダメだと思うのです。
それこそ、Out of box的にいろいろな視点の「Input」あってこそ、
「0から1」が生まれたり、それが「N倍化」したりするOutputに結びつくのだろう
と思うのです。

ところが、今やこの「Input」が至るところで硬直化しているように思えてなりません。

ちょっと前までは仕事のマニュアルとか、How to本やセオリー本とかは
そんなにありませんでした。
ですから、みんな自分で苦労して、時に痛い想いもしながら、
Outputするのに必要な「Input」を得てきたわけです。
今のリーダー層はみんなそんな感じだと思います。私もそうでした。

しかしこれでは、いかにも非効率です。「Input」を得る道筋を標準化しよう、
パッケージ化しようという動きが起きたのは当然です。
後進のために賢い人たちが時間をかけて"テキスト"を整理してきたわけです。
これが、いわゆる「人材育成プログラム」になりました。

これによって、仕事をする上で何を勉強したらいいのかわからなくて
大変だったところが、一気に楽になりました。
(もちろん、勉強そのものは大変ですが。)

問題は、その一方で「それだけやればいい」的ムードに陥ってしまったことです。

これに加えて「集団皿回し」状態になり、よそ見をする余裕もなく、
決められたパターンの「Input」で仕事をこなすのが
精一杯になってしまっているように思います。
結果として、「Input」が固定化し、一定の「Output」以上のものが生まれにくくなり、
ひいてはスケールの小さな人材が大量生産されている・・・そんな問題意識があります。

この大元をなんとかしないと、「0から1」とか「1のN倍」の人材が生まれてくる
環境づくりは難しいと思います。
グローバル化の必要性は1997年頃から叫ばれていますが、
大きな変化はありません。


で、どうしていくべきか。(この続きは来週に。)



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おまけ:京都の某ホテルで信じられない体験をしました。

「爪切りに前のヒトの爪がつまったままになっている」
「チェックイン時にベルボーイ、ゲストリレーションズ全員が
フロントカウンターを見ていない」
「ルームサービスでセッティングをしない(ラップもかけたまま)」
「会計時にクレジットカードの金額を打ち間違える」

このホテルには数年ぶりに宿泊したのですが、
そのクオリティの劇的低下にビックリしました。
お気に入りのホテルだったので、さすがに心配になり支配人に意見したところ、
「ヒトが減って、なかなか指導が行きとどかない・・・」と泣き顔になっていました。

これは「指導」でわかるものではありません。「体験」しないとわからないのです。

良いサービスをしたければ、理想とするサービスを体験してもらう。
これが一番だと思います。
新人研修はこれに限る。お辞儀やサービススキルを高めるメニューではなく、
「体験」して身体に沁み入れる。これだと思います。

自分が体験して感動したことをお客様に実践する。

これが原点だと思います。