柴田励司の人事の目

Indigo Blue メールマガジン

Vol.384 全員で同じボールを追う

ヒトが手薄になるところをカバーする。ついつい、そういう動き方になります。

きっかけは、京王プラザホテルのフロントです。当時はバブルまっさかり。
ほぼ毎日が満室。19時頃から21時頃まで、フロントカウンターは大混雑状態でした。
だからと言って全員が表カウンターに出てしまうと裏で電話をとったり、
サポート的な役割をするヒトがいなくなってしまいます。
そこで、当時は他のスタッフの動きを見ながら、自分で勝手に判断して裏に下がっていました。

責任者からの指示ではありません。責任者自身も率先してカウンターで接客しています。
全体を見る余裕はありません。なにしろ、責任者だからといって、奥に鎮座していられるような
人員配置ではありませんから。

何かの判断が求められるような事態になったときには、接客中でも責任者のそばに行って相談。
あとは、ある意味で全員が誰からの指示を待つことなく、全体の動きをみながら動く。
そんな感じでした。

この動き方はサッカーやバレーボールの動きに似ています。
コート内の全員がボールと相手の動きを見ながら動いているわけです。

ビジネスの現場でもこんな風に動けるといいですよね。それができたら理想的だと思います。
先のホテルのフロントのような接客の現場ではお客様の動きがボールですし、
やっていることもシンプルなので比較的やりやすいですね。
しかし、いわゆるホワイトカラーのチームだと、なかなかこれをやるのが難しい。

なにしろ全員で同じボールを追いかけるということが少ない。むしろ、一人ひとりが
自分のボールを追いかけるので手一杯。隣の席のヒトがどんなボールを追いかけているのか、
どんな課題があるのか、全くわからない。そうであっても大きな支障なく毎日が流れる。
これが現実かもしれません。

しかし、それを放置しておくと「現状」以上にはなりません。顧客価値をより高める、
サービスのプラットフォームをより強化する、といった成長気運は生まれません。
むしろ、やっているヒトのモチベーションが徐々に低下して、「現状」以下になっていくでしょう。
これは看過できません。

そういうときにチームのリーダーがするべきことは、経営情報を明らかにした上で、
全員で追いかけるボールを特定することです。

ボールはシンプルでなければなりません。一つのゲームの中でサッカーボール、
バレーボール、ラグビーボール、ゴルフボールを同時に追いかけよ、というのは無理があります。
いきおい、誰かがとるだろう、という様子見になります。試合でそんなことをやっていたら、
確実に負けますよね。

経営者のアジェンダは常に複雑です。そこには矛盾する内容も含まれます。
時間軸もごちゃごちゃです。そういうものです。
しかし、現場に出すメッセージはシンプルでなければなりません。

社長という椅子に座っていると否が応でも「複雑系」になります。
この「複雑系」を共有できる経営幹部であればいいのですが、そうでない場合には対象が
経営幹部であっても、出すメッセージはシンプルにしなければなりません。

会社がどういう状態にあるのか、がわかる経営情報の共有も必要です。
それがあって、初めてどのように立ち回るべきか、一人ひとりが自分で考えて
動けるようになります。

日経産業新聞で毎月「ベンチャー経営虎の巻」という連載をしていますが、その第一弾が
「苦しくなってきたら全員野球!」というタイトルでした。経営者たるもの、苦しくなってくると
ついついそれを自分だけの中で解決しようとします。が、そういうときこそ、社員を信じ、
情報を完全開示して、指示をしなくても社員が動ける状態をつくるべきなのです。


さて、ヒトが手薄なところへ回りたくなる習性は変なところでも存分に発揮しています。
ショッピングセンターで食事をする際に、つい一番お客さんが入っていないお店に行ってしまう、
地下街でヒトが歩いていかない方に行ってしまう、誰も買っていないようなモノを
敢えて買ってしまう・・・。

この習性はさすがに修正すべきと思う今日この頃です。



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おまけー1:顔を白くして「サダキヨだー」と言っているヒトがいましたが、明らかに「スケキヨ」
の間違いだと思います。


おまけー2:カメをいじめている理由を聞かずに子供たちを注意する浦島太郎、鬼というだけで
悪さをしていないのに征伐に出かける桃太郎、幼少時からまさかりを振り回す金太郎、
無理難題を言うかぐや姫・・・見方を変えるとおとぎ話のヒーロー・ヒロインたちの行動には
難あり?


おまけー3:男子バレー、応援しているのですが、ちょっと負けすぎ。悲しい。